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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)10208号 判決 1975年1月31日

原告

梁次一郎

被告

日吉鋼材株式会社

ほか一名

主文

被告日吉鋼材株式会社は原告に対し五七三万四四七四円及びこれに対する昭和四六年一二月二六日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告鎌田輝雄は原告に対し六二五万三七三七円及びこれに対する昭和四六年一二月一八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告)

一  被告らは各自原告に対し一四九〇万三六八〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

原告は次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一) 日時 昭和四三年八月一八日午後一時二五分頃

(二) 場所 東京都墨田区亀沢三丁目四番一〇号交差点

(三) 状況 交通整理の行われていない、制限速度四〇キロ、歩車道の区別のない舗装道路、被告車進路に一時停止標識あり。

(四) 被告車 普通貨物自動車(足一す三〇〇一)

運転者 菰田俊治

(五) 原告車 小型貨物自動車(足四さ一六一八)

運転者 梁次英雄

同乗者 原告(他二名)

(六) 態様 出合頭の衝突

(七) 傷害の部位・程度

鞭打症、両肩部挫傷、外傷性頸性症候群、左側頸肩腕症候群

(八) 治療経過

1 両国病院 昭和四三年八月一八日から一〇月三一日まで入院七五日、一一月一日から一一月二九日までの間通院(実日数一三日)

2 水野整形外科病院 昭和四三年一二月二日から昭和四四年八月一日までの間通院(実日数一〇二日)

3 城野外科病院 昭和四四年八月二日から八月三日までの間通院(実日数一日)、八月四日から昭和四五年八月二八日までの間入院三九〇日、九月二日から昭和四六年五月七日までの間通院(実日数六一日)

(九) 後遺症

左上肢三角筋々力低下、左上肢神経腫及び神経叢障碍、脳神経症状による頭痛

二  責任原因

(一) 被告鎌田は被告車を所有し自己のため運行の用に供しているものであるから自賠法三条に基づき本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。

(二) 被告会社は、被告鎌田を配車係責任者として、被告車運転者菰田を運転手として雇傭するとともに、昭和四三年七月頃から、被告車を含む被告鎌田所有の三台の貨物自動車を被告会社の倉庫(江戸川区東船堀)と豊川営業所(愛知県豊川市)に配置して管理し、車体に二〇センチ角の被告会社名を記載させ、被告会社の貨物運送の用に専ら使用してきたものである。

よつて被告会社は被告車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。また本件事故は被告会社の業務を執行中の右菰田の前方不注視、一時停止義務違反の過失により発生したものであるから、被告会社は民法七一五条一項によつても同じ義務を負うものである。

仮りに被告会社と被告鎌田並びに菰田との間に雇傭関係がなく、菰田が被告鎌田の被用者であつて、右貨物運送は被告会社と被告鎌田との間の請負関係に基づくものであるとしても、長期間にわたりいわゆる専属的請負関係にあるものであり、被告会社は右の請負関係を通じて被告車を支配し、被告鎌田並びに菰田を指揮監督して利益を得ているものである。したがつていずれにしても被告会社は原告に対し、自賠法三条又は民法七一五条一項に基づき本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。

三  損害

(一) 治療費

1 両国病院 三八万五三〇〇円

2 水野整形外科病院 二四万四九七〇円

3 城野外科病院 一二四万一三五七円

(二) 入院雑費

一日二〇〇円として入院四六五日分九万三〇〇〇円

(三) 通院諸経費

交通費等として一日一〇〇円、通院実日数一七七日分一万七七〇〇円

(四) 休業損害

原告は四〇数年来鋳物工を職業とし、昭和三五年頃から梁次鋳造所を自営し、妻と子供三名、雇人一名、アルバイトをも稼働さして、昭和四二年九月から昭和四三年八月までの事故前の一年間に原告個人の純益所得一五〇万八一〇五円(月平均一二万五六七五円)を得ていた。しかるに原告は、本件事故のため、長期にわたる入通院治療を余儀なくされ、しかも鋳物工として一番大切な手腕に障害を受けたために全く仕事をすることができず、前記従業員らの努力にもかかわらず、梁次鋳造所の中心的存在である原告を欠いたために、昭和四三年九月から昭和四四年八月までの純益所得は二六万九三七九円(月平均二万二四四八円)に減少した。よつて年間純益所得一二三万八七二六円(月平均一〇万三二二七円)の減収となつたものである。

原告は昭和四三年九月から昭和四六年一〇月まで三七ケ月分、三八二万一二五九円を休業損害として請求する。

(五) 逸失利益

原告(昭和四六年一一月当時六一才)は四〇数年の長きにわたり鋳物工として腕をみがきあげ、鋳造所を自営するに至つたのであるが、鋳造所の規模は小さなものであり、現実には原告自ら先頭に立つて型込み(鋳物の型を作ること)、湯くみ(型に金属を流し込むこと)等の作業に従事してきた。原告は本件事故前は力と両手のバランスを必要とする前記の作業を何の苦もなくなし得たにもかかわらず、本件事故後は、前記傷害と後遺症のために、左腕に全く力が入らず、頭痛、疲労感の症状により、せいぜい砂はらいか口頭による指図しかなし得ない状態である。さりとて原告の職歴、年令から転職は不可能である。

よつて原告は平均余命の範囲内において前記平均減収月額一〇万三二二七円の七割相当分の七・二年分(ホフマン係数六・五八九)五七一万八八三〇円を逸失利益として請求する。

(六) 慰藉料

1 傷害による慰藉料 一九〇万円

2 後遺症による慰藉料 一五〇万円

原告は鋳物工を天職としてきたものであるが、鋳物工の職に従事できない精神的苦痛は絶大なものである。

(七) 弁護士費用 一三〇万六五六四円

四  損害の填補 合計 一三二万五三〇〇円

(一) 両国病院治療費(自賠責保険) 三八万五三〇〇円

(二) 後遺症補償費(自賠責保険) 七八万円

(三) 被告らの任意弁済 一六万円

昭和四三年一二月一三日一〇万円、同年一二月末日と昭和四四年五月二一日各三万円(現金書留郵便)。

五  結び

よつて原告は被告らに対し各自一四九〇万三六八〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(時効、過失相殺の抗弁に対する答弁)

右抗弁はいずれも争う。時効の起算点としての「損害ヲ知ル」とは現実に具体的な損害額の権利行使が可能な時と解すべきであるから、機械的に事故の時から起算すべきではない。また本件事故現場の原告車進路(幅員約一一メートル)は被告車進路(幅員約八メートル)よりも広い道路であり、被告車進路には一時停止標識があるのであるから、原告車には徐行義務はなく、被告車において一時停止することを信頼して進行すれば足りるものであり、原告車運転者梁次英雄に過失はない。

(再抗弁、時効の中断)

一  被告鎌田は被告車の運行供用者である自らの立場と、被告車を含む所有貨物自動車を被告会社に配置して被告会社の貨物運送に当つていた者として被告会社を代理して、本件事故発生後原告のために自賠責保険金請求手続を行い、被告会社に対する請求書により原告の両国病院における治療費を支払い、被告会社名で、原告との間で原告車の損傷による損害につき示談をし、さらに昭和四三年一二月一三日に一〇万円、同年一二月末日と昭和四四年五月二一日に各三万円を原告に支払つた。よつて被告鎌田は自らの損害賠償債務を承認したものであり、被告会社も被告鎌田を代理人とし損害賠償債務を承認したものである。被告鎌田は、その提供にかかる被告車に関する一切の権利義務に関する事項について包括して被告会社を代理する権限を被告会社から与えられていたものであり、被告鎌田の前記行為は被告会社からの右代理権限に基づく行為であると同時に、被告車の運行供用者としての自らの行為でもある。

二  仮に被告鎌田に被告会社を代理して債務の承認をする権限がないか又は消滅していたとしても、被告鎌田と被告会社との前記業務形態及び被告鎌田の前記行動は、原告をして被告鎌田に被告会社を代理して債務の承認をする権限ありと信ずべき正当の理由があるものであるから、被告鎌田の右債務の承認は被告会社に対しても有効である。

第三被告鎌田の主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求の原因一の冒頭の事実及び同一(一)ないし(六)の各事実は認める、同一(七)、(八)、(九)の各事実は不知。

二  請求の原因二(一)の事実は認める。

三(一)  請求の原因三(一)、(二)、(三)の各事実は不知。城野外科病院での治療は症状固定後の治療であるが、原告の年令的体質的原因によるものであるから、同院での入通院費用は本件事故と因果関係を有しない。仮りに因果関係ありとしても、信義則ないし過失相殺の類推適用により、原告の年令的体質的要因の寄与部分を控除すべきである。

(二)  請求の原因三(四)(五)の各事実は争う。原告主張の減益は、専ら本件事故と無関係な営業形態の変更及び必要経費増によつて生じたものである。仮に本件事故による減益があるとしても、成人男子三名、妻、嫁らの労働及び老舗などの寄与部分を控除すべきである。また原告自身も入院中を除けば全然仕事ができなかつたわけではなく、鋳物業でも重要な材料のまぜ方を口頭で指示するなど仕事の手配はなし得たものである。さらに労働能力喪失率も九級の三五%を上まわる事案ではないし、労働能力喪失の継続期間は五ないし六年で打切られるべき事案である。

(三)  請求の原因三(六)は争う。本件事故と因果関係を有しない城野外科での治療経過は慰謝料の算定の基礎となり得ない。

(四)  請求の原因三(七)の事実は不知。

四  請求の原因四の原告の損害が一部填補された事実は認める。但し債務の承認とはならない。

(抗弁、時効)

本件損害賠償請求権は事故発生から満三年を経過した昭和四六年八月一八日限り時効により消滅した。よつて被告鎌田は時効の援用をした。

(抗弁、過失相殺)

本件事故の発生には原告車運転者梁次英雄にも、見通しの悪い交差点で徐行せず安全確認を怠つた過失があり、同人は原告の長男であつて原告と身分上又は生活関係上一体をなす関係にある者であるから、損害額の算定に当り、右過失を斟酌すべきである。

(時効の中断の再抗弁に対する答弁)

一  右再抗弁一の事実中、被告鎌田が原告主張の自賠責保険金請求手続や各弁済行為に関与した事実は認める。但しこれはいずれも被告会社の使者として行つたものであり、被告鎌田自身の行為としてしたものではない。また債務の一部の弁済が債務全部の承認となるのは債務の全部につき争いのない場合であつて、本件のように債務額が全く未確定かあるいは争いのある場合に、少額の一部弁済をしても残額につき中断の効力を生じるものではない。実質的に見ても、被告鎌田の意思としては、自賠責保険金の範囲内で協力したまでのことであり、将来確定する債務全額につき承認する意思とは程遠い。

二  右再抗弁二の事実は否認する。

第四被告会社の主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求の原因一の各事実は不知。

二  請求の原因二(二)の各事実は否認する。被告鎌田は鎌田商店という商号で貨物自動車数台を所有し運送請負業をしているものであり、被告会社と雇傭関係にあるものではない。被告鎌田は自らガレージを持たないところから、右貨物自動車を被告会社の江戸川区東船堀の倉庫や愛知県豊川市の営業所に配置し、被告会社倉庫係の発注指示に従い、被告会社の貨物を運搬し、請負代金は毎月二五日締め、翌月一〇日に支払を受けてきた。被告鎌田は右貨物自動車の鍵を自ら保管し、使用人を使つたりして右の請負業務に従事してきたものであり、燃料費、人件費、修繕費等の費用を自ら負担し、また被告会社のみでなく訴外石川ホーローの貨物運搬もしていたものである。被告車の車体に小さく被告会社名を記載していたようであるが、被告会社に無断で記載していたものである。

以上の次第であつて被告会社と被告鎌田の関係は、単なる請負関係にすぎないのであつて、被告会社が運行供用者責任や使用者責任を問われる理由はない。

三  請求の原因三の各事実は不知。

四  請求の原因四の事実中、被告会社が損害の填補に関与したとの事実は否認する。

(抗弁、消滅時効、過失相殺)

被告鎌田の消滅時効及び過失相殺に関する抗弁を援用する。

(消滅時効の中断の再抗弁に対する答弁)

右再抗弁一、二の各事実は否認する。被告会社が被告鎌田に対し代理権限を付与した事実は全くない。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生、過失相殺

請求の原因一の冒頭の事実及び同一(一)ないし(六)の事実は原告と被告鎌田との間で争いがない。そして、(原告と被告鎌田との間では右争いのない事実と)、〔証拠略〕。(技番号を含む)、及び右供述によると請求の原因一の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告鎌田は城野外科での治療関係は本件事故と因果関係を有しないか、少くとも原告の年令的体質的原因によるものである旨主張するが、右認定に供した証拠によると、水野整形外科病院での治療の終了の時点でいわゆる症状の固定状態にあつたと積極的に認定するには足りず(症状の固定時期により因果関係の有無を分つものでもない。)、また原告の年令的体質的原因が右症状の持続に寄与した可能性を否定し得ないとしても、後に認定する事実によると原告は本件事故前には鋳物工として通常の生活を営んできたものであり、年令的体質的原因が右症状に寄与したこと自体も本件事故によるものと判断できるから、右の年令的体質的原因の故に損害賠償額を減額すべき理由はない。

もつとも右認定に供した証拠によると、原告車運転者梁次英雄にも見通しの悪い交差点で徐行義務を怠つた過失が認められ、同人は原告の長男で、本件事故以前から原告と同居し生活を共にしていたものであるから、損害賠償額の算定に当り、梁次英雄の右過失を、いわゆる被害者側の過失として二割程度斟酌するのが相当である。

二  責任原因

(一)  被告鎌田が被告車の運行供用者である事実は、原告と被告鎌田との間で争いがない。

よつて被告鎌田は原告に対し、自賠法三条に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務を負うものである。

(二)  〔証拠略〕によると次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。被告会社は日立金属の特約店として主として特殊鋼を販売する会社であるが本件事故当時自己所有の貨物自動車を所有せず、客先への特殊鋼の納入には、貨物自動車を所有する被告鎌田や訴外佐俣との間の請負関係に専ら依存してきた。被告鎌田は被告車を含む三台の貨物自動車を所有し、鎌田商店の商号で、被告会社との間で請負契約を結び、被告会社の指示により、被告会社の江戸川区にある倉庫や愛知県豊川営業所の扱う商品を客先へ搬入する作業に従事し、毎月二〇日締め翌月一〇日支払の約で請負代金を受領してきた。被告鎌田は右貨物自動車の鍵を自ら保管するものの、右貨物自動車を被告会社の江戸川区の倉庫に保管し、車体の両ドアには「日立鋼材」と被告会社名を記入し、被告会社との右請負関係により毎月四〇数万円の請負代金を受領してきた。本件事故時の被告車の運行は、右豊川営業所からの帰路であつた。

右事実によると、被告会社は右業務内容の不可欠の一部を構成すると推認し得る特殊鋼等の運搬業務を、専ら請負人との間の請負関係に依存しているものであり、被告鎌田は右の請負関係によりかなりの収入を挙げてきたものであつて、本件事故当時の被告車の運行も右の関係の一環をなすものである。したがつて被告会社は右の請負関係を通じ被告車を指示制御することができ、かつ、指示制御すべき立場にあつたものであり、これにより利益を得ていたものである。そして、被告鎌田が被告車を被告会社との間の右の業務の他にも他の会社等との間での請負関係に時に利用することがあつたとしても、右の被告会社との間での被告車の利用形態、利用実績に照らし、右の認定判断を左右するものではない。

してみると被告会社は、自賠法三条に基づき、被告車の運行供用者として、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務を負うものである。

三  損害

(一)  治療費

1  両国病院

〔証拠略〕によると原告は昭和四三年八月一八日から一一月二九日までの同院での治療費として三八万五三〇〇円を負担し損害を受けた事実が認められ、これに反する証拠はない。

2  水野整形外科病院

〔証拠略〕によると原告は昭和四三年一二月二日から昭和四四年八月一日までの同院での治療費として二四万四九七〇円を負担し損害を受けた事実が認められ、これに反する証拠はない。

3  城野外科病院

〔証拠略〕によると原告は昭和四四年八月二日から昭和四六年五月七日までの同院での治療費(国民健康保険が負担した部分を除く)として一二四万一三五七円を負担し損害を受けた事実が認められ、これに反する証拠はない。

ところで、〔証拠略〕によると水野整形外科病院では原告の症状はほぼ症状固定の時期に達した旨診断したので、原告の妻が保険会社に保険金請求の手続を聞きに行つたところ、担当者は後遺症の等級に関し念のためもう一個所で診断を受けて欲しい旨告げたので、原告は城野外科病院で診察を受けるに至つたものであるが、同院ではいまだ症状固定に達していないとして、原告の予測せざる長期の治療を受けるに至つたものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  入院雑費

前判示入院日数に照らし入院雑費として原告は少なくとも九万三〇〇〇円を要したものと推認する。そして前判示両国病院(七五日)と城野外科病院(三九〇日)との入院日数に照らすと(イ)両国病院での入院雑費は右のうち一万五〇〇〇円、(ロ)城野外科病院での入院雑費は残金七万八〇〇〇円と認められる。

(三)  通院諸経費

前判示通院実日数に照らし通院諸経費として原告は一万七七〇〇円を少なくとも要したものと推認する。そして前判示各病院での通院実日数に照らす、(イ)城野外科での通院諸経費は右のうち六二〇〇円、(ロ)残金一万一五〇〇円は他の病院での通院諸経費と認める。

(四)  消極損害

〔証拠略〕よると、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。原告(明治四二年一二月一五日生、事故当時五八才)は四〇数年来鋳物工を職業とし、昭和三五年頃から梁次鋳造所を自営し、妻と子供三名(成人)、(四名共専従者給与の受給者)雇人等と共に稼働し、原告が中心となつて右鋳造所を経営し、昭和四二年九月から昭和四三年八月までの、本件事故前の一年間で、公租公課、右給与、地代等の諸経費を控除し純益一五〇万八一〇五円の所得を得ていた。ただ右専従者給与は一般的標準の給与に比較するとかなり下まわつている。右鋳造の作業には鋳物の型を造る作業(型込)と型に金型を流し込む作業(湯くみ)等があるがいずれも手を使う作業で特に左手を使うことが多い。原告は前判示受傷による入通院と後遺症状により右作業に従事できず、退院後は、口頭による指示とか製品の砂はらい程度の作業を担当してきた。

右認定の梁次鋳造所の就労状況、前判示原告の受傷の部位・程度、治療経過、後遺症状に照らすと、右純益の内原告の労働による寄与分は八割(専従者控除のあること、但しその程度は低いこと等も勘案し)とするのが相当であり、原告はこのうち<1>昭和四三年八月一八日から城野外科病院退院時に近接する昭和四五年八月一七日までの二年間は一〇〇%、<2>その後二年間は五〇%、<3>その後二年間は三五%、<4>その後二年間は二〇%を喪失したものと見るのが相当である。よつてライプニツツ式により中間利息を控除した原告の消極損害の合計は四二四万一四七〇円となる(別表参照。)

(五)  過失相殺

以上(一)ないし(四)の原告の財産的損害の合計は六二二万三七九七円(そして、城野外科病院前の財産的損害は、(一)1、2、(二)(イ)、(三)(ロ)、(四)<1>(イ)の合計額一八〇万五七〇四円、城野外科病院以降の財産的損害は、(一)3、(二)(ロ)、(三)(イ)、(四)<1>(ロ)ないし<4>の合計額四四一万八〇九三円となる。)となるが、前判示梁次英雄の過失を二割程度斟酌すると四九七万九〇三七円(城野外科病院前の財産的損害一四四万四五六三円、それ以降の財産的損害三五三万四四七四円)となる。

六  慰藉料

前判示原告の傷害の部位・程度、治療経過、後遺症の程度、梁次英雄の過失の程度、その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情を斟酌すると原告の慰藉料は二〇〇万円とするのが相当である。そして昭和四四年八月二日に原告が城野外科病院で治療を受けるに至る以前の事情による慰藉料は右のうち四〇万円、残金一六〇万円は同日以降に発生した諸般の事情による慰藉料と認めるのが相当である。

四 損害の填補

以上の次第で賠償を要する原告の損害は六九七万九〇三七円となるが、原告はこのうち一三二万五三〇〇円の填補を受けた旨自陳しているのでこれを控除すると未填補の損害は五六五万三七三七円となる。

ところで原告は右損害の填補につき、被告鎌田の行為であるだけでなく、同人に於いて被告会社を代理してなしたものであるが、少なくとも原告において右の如く信じるにつき正当な理由がある旨主張するが、本件全証拠によるも、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、〔証拠略〕によると、右填補は被告鎌田において、原告主張の頃、行つたものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

五  時効

被告らは、本訴請求が本件事故発生後三年以上経過して提起(記録によると訴提起の日は昭和四六年一一月一七日と認められる。)されていることから、本訴請求権につき時効が完成している旨主張する。

(一)  そこでまず被告会社との関係につき判断する。身体傷害による不法行為においては、身体という保護法益の侵害に基づく一個の損害があるのであつて、その損害の具体的な各費目は右一個の損害を算定するための懲憑事実にすぎないと考えるべきであり、従つて例えば治療費の出捐や休業による利益の喪失が継続的ないし間歇的に具体化する場合にあつても、それが当初から予測され得る範囲のものである限りにおいては、時効は加害者の不法行為と受傷の事実を知つた時点からその全体につき一括して進行するものと解すべきであるが、事故から相当期間経過後に被害者の当初予測し得なかつたような事態、経過によつて、損害がさらに発生したような場合には、右被害者の予測せざる損害に関する消滅時効は、被害者が右の事態を知つた時から当初の損害に関するものとは別個に進行すると解すべきである。

これを本件についてみるに、前判示事実によると、原告の本件事故直後から城野外科病院前の財産的損害及び右時点までの事情に基づく精神的損害については、原告は本件事故の時に損害を知つたものとしてその時から消滅時効が進行し、これより三年を経た昭和四六年八月一七日の経過により時効期間が満了したものというべく、右につき被告会社が本件第二回口頭弁論期日において時効を援用したことは記録上明らかであるから、原告の損害のうち城野外科病院前の財産的及び精神的損害は、被告会社との関係で時効によりその請求権は消滅したものというべきであるが、城野外科病院以降の損害(過失相殺後の財産的損害三五三万四四七四円、精神的損害一六〇万円、合計五一三万四四七四円)については、被害者たる原告において当初予測し得なかつたものであり、昭和四四年八月二日に城野外科病院において診察を受けた時に右損害を知つたものとしてこの時から時効が進行し、従つてこの部分に関する限り被告会社の時効の抗弁は理由がないものといわなければならない。

尚、被告鎌田は前判示のとおり、一三二万五三〇〇円を填補履行したものであり、不真正連帯債務者たる被告会社との関係においても填補としてこの効力を有することは明らかであるが、被告らに於いて弁済の充当についての指定をせず、弁論の全趣旨によると原告は右填補受領分を城野外科病院前の損害に充当する旨の思意表示をしているものと認めるのが相当である(一個の債権の一部弁済ではあるが右時点の前後によつて債権についての法律的取扱を異にするので弁済の充当の問題として処理するのが相当である。)から、城野外科病院以降の右損害については他に減額事由はない。

(二)  次に被告鎌田との関係について判断する。前判示事実によると被告鎌田は請求の原因四記載のとおり損害の填補履行をしたものであり、これにより昭和四三年一二月一三日の時点では時効は債務の承認により中断しているものである。前判示のとおり身体損害による不法行為においては、不法行為時に、原則として、一個の損害(請求権)が発生するものと観念され、原告と被告鎌田との間のように、不法行為の当事者間において責任の存否につき争いがなく、要償額のみが争点となつている場合には、特段の事情のない限り、加害者の意思は賠償責任のあることを前提とし、損害賠償の具体的金額の確定をなお爾後の手続に委ねるものとし、とりあえず明らかになつた現実的損害を填補する意思と解するのが相当であるからである。

してみると被告鎌田との関係においては時効の起算点のいかんにかかわらず、右抗弁は理由がない。

六  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告が本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し、手数料並びに報酬を支払う約束をしている事実が認められる。そして本件訴訟の経過、難易度、認容額等の諸般の事情を勘案すると、被告らに支払を命ずべき弁護士費用の本件事故時の現価は六〇万円とするのが相当である。

七  結論

以上の次第であるから被告らに対する原告の本訴請求は、被告会社に対し五七三万四四七四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四六年一一月二六日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求と被告鎌田に対し六二五万三七三七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四六年一二月一八日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求の限度で理由があるので認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとする。

よつて訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮良允通)

消極損害計算表

<1> 43.8.18(58才)~45.8.17(60)

(イ) 43.8.18(58)~44.8.17(59)

150万8105×0.8×0.9523=114万8934

(ロ) 44.8.18(59)~45.8.17(60)

150万8105×0.8×(1.8594-0.9523)=109万4401

<2> 45.8.18(60)~47.8.17(62)

150万8105×0.8×0.50×(3.5459-1.8594)=101万7367

<3> 47.8.18(62)~49.8.17(64)

150万8105×0.8×0.35×(5.0756-3.5459)=64万5945

<4> 49.8.18(64)~51.8.17(66)

150万8105×0.8×0.20×(6.4632-5.0756)=33万4823

<1>+<2>+<3>+<4>=424万1470

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